2017.08.16
皆さんはロンドンにフロイト博物館があるのをご存じだろうか。“フロイト”というのは、オーストリアの精神医学者ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)のこと。ドイツ語発音だと「ジクモント・フロイト」で日本語表記に近いが、英語発音では「シグマンド・フロイド」と聞こえる。フロイトは現代の我々が無意識のうちに口にしている、「無意識(unconscious)」という概念を世界で初めて唱えた人物であり、後世の色々な分野に影響を及ぼした偉大な精神科医、心理学者、哲学者である。世界の観光地の中で唯一、私自身が心理学専攻であったことを思い出させてくれた施設だ。私は8月11日に訪問した。
ユダヤ人だったフロイトは、ナチスから逃れて1938年6月6日にイギリスにたどり着き、9月27日にこの邸宅に定住した。その後も診療、研究、執筆を続けたが、翌39年9月23年に83歳の生涯を閉じている。
彼の死後も妻マーサや末娘アンナらが住み続け、アンナは児童精神分析の先駆けとして活躍した。父の書斎と図書館を保存し続けたアンナが82年に逝去すると、彼女の遺志により邸宅は86年7月に博物館として公開され、現在に至っている。
精神分析という独自の手法によって、人間の奥深い領域に光を当てた偉大な親子の足跡を辿ることができる。
この書斎は、フロイトがロンドンに移ってきてもオーストリアと同じ環境で働けるようにと、息子のアーネストと家政婦のポーラ・フィクトルが移設したのだそうだ。書斎のカウチ(寝椅子)は、「世界でもっとも有名なカウチ」と呼ばれ、フロイトが数えきれないほどの患者に精神分析(自由連想)を行った正にその診療台である。偉業が生み出された瞬間に立ち会えた感じ。
書斎を見た瞬間の感想が、「まるで自分と一緒じゃん」というもの。大先生に対して失礼ではあるが、フロイトの収集した古代からの3D造形物の多さに、コレクターである私自身の性分と非常に共通するものを感じた。本の多さもしかり。私の部屋も書籍(ほとんどが自動車)で壁が埋め尽くされている。フロイト自身が「骨董品コレクションはタバコ中毒に次ぐ癖」と語っている通り、確実に彼は“生粋のコレクター気質”だった訳だ。もちろん、精神分析に活かすためだったのだが、それは私の書籍も同じ。実車情報に精通しなければ、スケール・モデルのコレクターは務まらない。同類の匂いは、一瞬で嗅ぎ分けられるものだ。
邸宅(博物館)の2階では、娘アンナ・フロイトの診療部屋が保存・公開されていた。部屋の外の壁に、フロイト一族の家系図が描かれていたが、ジークムント・フロイトという著名人を輩出すると、何代か遡って、また何代かの子孫まで、研究者たちに存在が掘り起こされ、歴史に名が刻まれていくのだなと感じた。
坂本龍馬の先祖や子孫も同じ。あの偉人が1人輩出されただけで、その家系自体が特別なものとして歴史研究や文化継承の対象となっていく。これも、人間が生来持つ知的好奇心の成せる業なのだろう。
博物館は、ロンドン街中の観光地とは来場者の傾向が全く異なり、この世界に何らかの関係や特別な関心がありそうな大人ばかりだった。それでも施設の大きさに見合った入場者が、ひっきりなしに訪れていた(私は人を避けて写真撮影)。
ロンドンのありきたりな観光地に飽きたら、是非訪ねてみて欲しい。皆さんの訪問が、この博物館が後世にも維持継承されていく資金的支援になる。訪問の際は、お土産もたくさん買ってね。どこかファンキーなフロイト・パペット(指人形)もあるから。
FREUD MUSEUM LONDON
20 Maresfield Gardens, London NW3 5SX
Tel.: +44(0)20 7435 2002 URL: www.freud.org.uk
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