Chapter 5 - Section 2
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第5章 第2節
コレクターが実際手にするモデルカーは、既に商品として流通している状態のキットや完成品に限られます。従って、多くの方が「どうやってこんな完成度に仕上がるの?」、「精密モデルカーはナゼこんなに高額なの?」と、少なからず疑問を抱かれているのではないでしょうか。
愛すべき作品について深く知るには、作品の生みだされ方、つまりモデルカー・メーカー(クリエイター)による製造方法を知るのが効果的です。コレクターであるために必要な、一般教養の一つと言ってもいいでしょう。
そこで第2節では、当ウェブサイトの本記事執筆のために、私が実際にクリエイターを訪問取材してきた、レジン製モデルカーの製造方法について紹介いたします。
Description
Gumpert was established in 2004 at Altenburg middle east of Germany as a manufacturer dedicated to a new generation sports car by the former Audi's engineer Roland Gumpert, who managed Audi Sport to win 4 times World Rally Championship titles. The first production car Apollo was designed by Marco Vanetta and produced in 2005. Power plant was Audi's 4.2 litre twin turbocharged 90 degree V8 engine and the maximum output varied according to model types; entry Apollo 650ps, sport Apollo S 700ps, racing Apollo R 800ps. Apollo S recorded the fastest lap time of 7:11.57 on the Nürburgring Nordschleife (20,600m) in 2009 and had kept the title of the world's fastest road car coupe until Porsche 918 Spyder shortened 14.57 seconds. Model car is Apollo S (20/50) and created by FrontiArt.
作品解説
グンペルトは、元アウディのエンジニアであるローラント・グンペルトらによって、新世代スポーツカーのを開発製造を目的として、2001年ドイツの中東部に位置するアルテンブルクに設立されました。彼はアウディ・スポーツを率いて4度のラリー世界王者に輝かせた実績を持ちます。開発第1号車が2005年のアポロで、徹底的な空力追求とガルウィングを携えた個性的なボディ・スタイリングは、マルコ・ヴァネッタのデザインです。アウディ製でバンク角90度の4.2リッター・ツインターボV8エンジンを搭載しており、モデル・タイプによって最大出力が異なります。入門者用のアポロは650ps、スポーツ仕様のアポロSは700ps、レース仕様のアポロRは800psです。ドイツのニュルブルクリンク北サーキット(全長20.832km)で、アポロSは2009年に当時最速の7分11秒57を記録し、2013年にポルシェ918スパイダーに14秒57更新されるまで、世界最速“ロードカー・クーペ”として記録されていました。モデルカーはアポロSで、完成度の高いスーパーカーモデルに定評のあるフロンティアートの作品(限定50台の20番目)です。
Frontier Spirits and Craftsmanship / 先進性と職人技の融合
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2015年5月15~17日の『世界モデルカー博物館』グランドオープン・イベントに、遠路はるばる駆けつけてくれた御厚意に応え、3箇月後の8月12~14日に今度は私がフロンティアート社を訪ねました。お礼の表敬訪問であると共に、同社の高品質な製品がどのようにして製造されているかを自分自身で見聞し、その概要を皆さんにお伝えするためです。
ただ、私が訪問した時期は1/43スケールの製品がたまたま生産休止状態で、ほとんどの生産ラインが1/18スケールに集中していました。また、同社初挑戦となる完全精密再現の1/8スケール作品も試作中でした。従って、スケールのことは気にせず、本編記事をお楽しみください。
なお、記事の内容は取材当時(2015年8月)のものです。
※ 残念ながら、企業秘密に属す技術や工程は伏せていますので、
説明内容が少々大雑把であることをご了承ください。
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モデルカー開発における最初の課題は、実車情報の収集と造形への反映です。残念ながら、実車メーカーから十分情報提供されることはまず無く、直接実車を取材できる機会も少ないため、ほとんどの場合、入手したわずかな写真から造形を独自に読み取り、CAD情報に起こしていきます。
実車メーカーが多額のライセンス料を請求する一方、作品の開発はほぼ100%がクリエイター(モデルカー・メーカー)の企業努力です。単にロゴマーク等を使用するだけのアパレル商品とは違い、モデルカー業界におけるライセンス事情は、消費者であるコレクターから見ても不合理な状況にあります。
モデルカー業界は一致団結して実車メーカーと交渉し、仕組みの改善に取り組まねば、業界の継続的な発展と体質強化は図れないでしょう。
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white wax, red wax, Design Department Mr Xiong
昔は写真を見て原型師が粘土で造形していましたが、近年は3D情報からCNC(コンピュータ数値制御)工作機械で1次原型を試作します。パーツの大きさに応じて、硬さとなめらかさの異なる2種の素材(白ロウと赤ロウ)を使い分けます。
立体に造形された試作原型は、仮組みしながら出来上がりを確認し、修正を加えていきます。特にフル開閉モデルの場合、可動部の形状や機能などに細かな調整が必要です。
写真は、1/18フル開閉のケーニグゼグONE:1で、設計から2箇月を要し、パーツ数は約300点です。設計者のシオン氏が確認しているところで、何度か仮組み・修正を繰り返し、形状を確定させた後、表面を滑らかに加工します。
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仕上がった試作原型を基に、複製するためのレジン製1次原型を製作します。作品形状の完成度を確定する、重要な工程です。写真は、同社初挑戦となる1/8スケールのフル開閉ケーニグゼグONE:1で、1次原型の最終調整をしているところです。設計開発に1年間を要した大作ですので、リリース情報に注目して下さい。
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1次原型をレジンで複製するための外枠(雌型)、つまりシリコン製の2次原型を製作します。固まるには約8時間かかり、パーツごとに製作するため、かなりの手間と時間を要し、質の高いシリコンは原材料費も結構かかります。
シリコン型は、約15回転用できます。つまり、300台製造するには、2次原型が各パーツにつき約20個必要ということです。転用を重ねると、シリコンは透明度の高い乳白色から、だんだん白濁色へと変化していき、最後は廃棄されます。
中央の写真は、ホイールの1次原型と2次原型です。左右の写真は、固まったシリコン型に切り目を入れ、2つに分割して1次原型を取出しているところです。ナイフの入れ方にも熟練を要します。
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2次原型にレジン注入口を取付け、成型用材料を流し込んで、作品に用いるパーツを製作します。レジンには様々な性質の材料が存在しており、成型されると非常に硬く頑丈に仕上がるものもありますが、材料費は高額になります。同社は常に新技術の開発に挑戦していますが、品質向上とコスト縮減の両立は、メーカーにとって永遠の課題と言えます。
写真は、成型された部品を取り出しているところです。黒い部品はゴムタイヤです。左端は取出し前、右2つはシリコン型と取出し直後のタイヤ・パーツです。ボディシェルの2次原型では、レジン注入口が付いている様子が良く分かります。
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Aston Martin Vanquish Coupe, Aston Martin ONE-77, Koenigsegg ONE:1, W Motors Lykan Hypersport,
シリコン型から取出したばかりのパーツには、材料を注入するためのゲートやバリ、気泡やヒケなどがありますので、塗装に向けて清掃と修正を行います。
写真のボディ・シェル(1/18)は清掃後の状態で、左からアストン・マーチン・ヴァンキッシュ、同ONE-77、ケーニグゼグONE:1、Wモータース・ライカン・ハイパースポーツです。右端ライカンの銀色は、本塗装ではなく下塗りの色です。
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Aston Martin V12 Zagato, Aston Martin ONE-77, Koenigsegg Agera, Zenvo ST1, Pad pringing
パーツの塗装、特に均一で光沢の必要なボディ・シェルでは、下地からクリアまで数回の塗装を繰り返します。同社は精巧度とともに塗装品質の高さに定評がありますが、その秘密は決して機械装置に依存している訳ではなく、正に職人技に他なりませんでした。もちろん、研ぎ出して仕上げます。
写真は左から、アストン・マーチン V12ザガート、同ONE-77、ケーニグゼグ・アゲーラ、ゼンヴォ ST1です。カーボン部などは、面積の広さによってデカールとタンポ印刷(パッド印刷)を使い分けます。
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ボディ、シャーシ、内装、足回りなど、全ての部品が出来上がったら、1台のモデルカーに組上げます。写真はフル開閉のアストン・マーチン・V12 ザガートの組立て風景です。
同社の作品は、開閉部が驚くほど隙間なくピッタリと接しますが、それは単に造形時のパーツ形状の正確さだけではなく、形状の適合性を確認しながら部品を選択して組立てる、この最終工程の作業品質に負うところが大きいと言えます。
組上がったモデルは、展示・運搬用の台座に固定され、作品名プレートが取付けられて完成となります。
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取材時の時間的事情から、完成作品を撮影することができませんでしたので、既存の広報写真を借用して紹介します。全て本編記事に登場した1/18作品です。1/43モデルより2.4倍大きいため、細かい部分まで緻密に再現されています。
上から順に、Wモータース・ライカン・ハイパースポーツ(銀色)、ゼンヴォ ST1(薄緑色)、アストン・マーチン・ヴァンキッシュ(白色)です。詳細や他の作品などは、フロンティアート社のウェブサイト等でご確認ください。
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そもそも、写真などの2D情報から3D造形物に起こす作業自体に高度な専門性が必要で す。モデルカーのスタイリングの良さは、この時点で決まります。全てパーツが揃うまで、つまり市販のキット商品に近い状態までに、結構な熟練・労力・時 間・材料を要します。ここからさらに組立作業が始まります。なお、市販キットの組立方法は、第3節をご覧ください。
もっと生産効率を上げ、コストを抑え、作品の魅力と価値を高めていくのはメーカーの企業努力に他なりませんが、わずか10cmほどのモデルカー1台が数万円するのには、然るべき理由が存在しているのだとお解りいただけたことでしょう。
作品の1台をあなた自身が手に取り、その完成度を目の当たりにされると、「ミニカー」(寸法表現)ではなく、「モデルカー」(品質表現)と呼びたくなるはずです。鑑賞のための「大人の美術工芸品」だと納得できるからです。自信を持って堂々と、価値に見合った価格を支払い、モデルカーを購入しましょう。コレクターへの第一歩です。
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フロンティアート社では約80名のスタッフが働いています。写真で紹介したのはほんの一部で、設計開発から原型製作までの部署のスタッフです。他部署スタッフも含め、皆が仕事熱心で、一丸となって同社製品の魅力を支えています。
今後も新しい技術開発に取組んで、コレクター達を魅了する作品群を生み出し、モデルカー業界の発展と社会的地位の向上に大きく貢献してくれるものと期待しています。皆さんも応援よろしくお願いします。
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