Abandoned Japanese F1 Road Racer / 幻の和製 F1 ロード・レーサー
Chapter 6 - Section 1 - Subsection 2
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第6章 第1節 第2項
オイルショックと排ガス規制を乗り越え、技術革新と共に魅力的なスーパーカー達が数多く世に送り出された1990年前後は、“第2期スーパーカー黄金時代” です。F40、テスタロッサ、ディアブロ、EB110、XJR15、XJ220、マクラーレンF1などが誕生しました。和製スーパーカー・プロジェクトとして、第1期(1970年代)の象徴が童夢-零なら、第2期の象徴がこのジオット・キャスピタです。
1987年秋、京都のワコール社が、親交のある童夢社と手を組み、ワコール・スポーツカー・プロジェクト(WASCAP)を立ち上げます。ワコールの新しいイメージ・コアを確立したい塚本能交社長と、和製スーパーカーの夢を今度こそ実現したい林みのる社長の思いが合致しました。88年7月、ジオット社(ワコール出資)とジオット・デザイン社(童夢出資)が設立され、89年9月にキャスピタ第1号車が誕生します。
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開発コンセプトは「F1 オン・ザ・ロード」(公道を走るF1マシン)、つまり、F1用NAエンジンを、グループCプロトタイプカーの公道用シャーシに搭載し、ロードカーでありレースカーにもなるスーパーカー開発を目指しました。F40や後のF50、マクラーレンF1などとも共通するコンセプトです。
童夢社員(当時)の伊藤邦久(現・デトロイトのデザイン大学CCSの教授)がチーフ・デザイナーを務め、エクステリア・デザインには童夢が蓄積したグループCカーの開発ノウハウが注ぎ込まれました。その美しい流線形のスタイリングから、「地上に舞い降りたジェット戦闘機」とも呼ばれています。
高い剛性が求められるシャーシには、市販ロードカー初となるカーボン・コンポジットのモノコック・フレームが採用されました。ミッドに搭載するF1用パワー・ユニットは、最初期から参画している富士重工業社がモトーリ・モデルニ社と共同開発した3.5リッター水平対向12気筒エンジン(600ps)です。
試作第1号車は、1989年10月の東京モーターショーで初お披露目され、現在は日本自動車博物館(石川県)に展示されています。1/43モデルカーでは、既に廃業したマレーシアのバンセン・モデルズ社(写真)と、日本のヨウ・モデリーニ社の2社からのみ発売されています(2016年5月現在)。
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Judo V10
1989年に試作第1号車が完成し、これから完成度を高めようという90年、富士重工業社が突然F1から撤退したことで、キャスピタは搭載するエンジンを失ってしまいました。代替となるF1のNA(自然吸気)エンジン選定は難航し、イギリスのエンジン・ディベロップメンツ社製、3.5リッター・ジャッドV10エンジンに決まるまで、実に1年半が費やされました。
キャスピタの心臓部に選定されたジャッドV10(585ps)は、91年にF1デビューし、翌年はルマンで活躍、93年のF1にも搭載された当時現役のF1エンジンです。しかし、水平対向12気筒からV10への変化は大きく、車1台を作る6~7割の改造作業量が費やされました。そうして完成した試作第2号車ですが、公道を走るにはナンバープレートが必要です。
童夢-零では、市販車の型式認定を管轄する運輸省(現・国土交通省)に、許可どころか申請さえ受付けてもらえませんでした。そこでキャスピタでは、組立て後に分解したパーツをイギリスのIAD社に送り、現地で組立て・型式認定を済ませ、日本へと“輸入”する作戦でナンバープレートを取得しました。93年7月、“ロードカー” ジオット・キャスピタの誕生です。
苦心の末に実現した和製 F1 ロード・レーサーですが、衰退する経済情勢や許認可制度の壁を破ることはできませんでした。ジオットのスーパーカー開発プロジェクトは、第2号車の完成を以って完結します。写真のモデルカーもバンセン・モデルズ社の作品です。鮮烈デビューを果たした第1号車から4年も経っていたせいか、スケール模型はこの1種のみです。
Personal View
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私的見解
ジオット・キャスピタは、派手に立ち上げたものの実績を残さず消滅した典型的な新興スーパーカー物語の1つに過ぎません。しかし、日本初の公道Cカーという素性や、虚飾のない兵器(ジェット戦闘機)然とした弾丸形スタイリングには圧倒的な存在感があり、私にとって最も好きな日本車の1台です。ただ、見かけとは裏腹にエンジニアリングの現実は厳しく、同じ童夢が設計したトヨタ89CV(89年)より、前後共にダウンフォースは小さい値となっています。
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