Chapter 4 - Section 3
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第4章 第3節
趣味は至極個人的なものであり、同じ分野でも細かい対象やハマる壺は千差万別です。そのため、対象に見出した趣の視点や切り口に個性が表れます。そうして独自の目線で趣と味わいが語れるレベルに至って、「趣味」となります。
モデルカー収集の場合、車自体は実車のデザイナーやエンジニアが創造します。その縮小再現は、模型クリエイターが行います。通常、その過程にコレクターは介入しません。そのような環境下で、いかにして個人の独自性が発揮されるのか、コレクションの成り立ちから考察していきます。
Description
20 years later from the launch of McLaren F1, its spiritual successor was officially unveiled in 2013 as the hybrid "position one" supersports McLaren P1. Its power plant didn't succeed predecessor's natural aspirated V12 but 3.8 litre twin turbocharged V8 engine derived from 2011 MP4-12C. Maximum output was increased to 737ps and the total output achieved 916ps. Taking over F1's spirits, the P1 was designed, engineered and built to be the best driver’s car in the world. Frank Stephenson's bodywork was "shrink-wrapped" to attain the functional yet beautiful styling. In 2015, to celebrate the Le Mans winning 20th anniversary of McLaren F1 GTR, 1000ps GT racing car McLaren P1 GTR was presented. The model car is XP2R meaning experimental prototype 2nd for racing car.
作品解説
マクラーレンF1から20年の時を経て、その志を継ぐハイブリッド・スーパースポーツ・マクラーレンP1が、2013年に正式発表されました。P1とはPsition1(1位)を表します。エンジンは先代F1のような自然吸気(NA)V12ではなく、2011年のMP4-12Cと同じ3.8リッターV8ツインターボの発展型で最高出力は737ps、モーター出力を加えると計916psを発揮します。先代F1同様、伝統的かつ最新のF1技術を導入しつつも、“世界最高のドライバーズ・カー”を目指して設計・開発されました。そのためボディ・スタイリングにおいても、フランク・ステファンソンによって機能と美観が徹底的に追求されました。加速性能は0-100km/hが2.8秒で、0-300km/hが16.5秒と先代より5.5秒も上回っています。2015年には、マクラーレンF1GTRのル・マン制覇20周年を記念し、1000psを誇るGTレースカー・マクラーレンP1GTRが正式発表されました。モデルカーのXP2Rは、“実験試作2号車でレーシング・カー用”、つまりP1GTRの開発試作車と憶測されます。
One's Reflection in a Mirror / 鏡に映った自分の姿
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自動車という工業製品は、鉄道や飛行機に比べてもその分野と種類は群を抜いて豊富です。自動車模型の世界においても、何らかの商品として世に送り出される製品数は、私でも到底把握することができないほど膨大です。
コレクターというのは、無限に近い商品群の中から、自分の感性で1台1台を選択します。すると、パズルのピースが組み上がったかのように、コレクターの趣向が投影された1つの集合体が形成されます。そこに、人格ならぬ“コレクション格”とでも呼ぶべき、コレクションの個性が現れます。
そのため、コレクションを見ればコレクター本人の“人となり”が読み取れます。収集の仕方にコレクターの個性が反映されるからです。コレクションは自分自身を映す鏡なのです。例えば、コレクションを自慢したい人は自分を認めて欲しい訳で、コレクションを見られるのが恥ずかしい人は、内容がショボイからではなく、自分の“人となり”を覗かれたくないのです。
しかし、“コレクション格”を読み取るには、コレクターとしてそれ相応の実力が必要です。なぜなら、自分自身を基準に相違点を認識することで、他者の個性が理解できるからです。従って、世界モデルカー博物館はどなたにでも楽しんでいただけますが、練達のコレクターの方なら一般の方の数十倍は愉しめることでしょう。
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精密モデルカーの世界に限定しても、第1章・第5節の縮尺や、第2章・第1節の分野別などにより、収集対象の細かい分類は多岐にわたり、それらが複雑に組み合わさっていくことで、コレクションの構成方法は数限りなく存在します。その中でも、核となる象徴的な収集コンセプトを5つ紹介します。
収集に際しては、何かの条件を統一することで、他の要素に自由度が高まり、多様性が広がります。しかし、手法は最初から意図したものではなく、感性のまま収集した結果、ある段階で自分の中の収集ルールに気づくのです。一旦自覚すると、コレクションの個性は加速度的に強化されていきます。
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自動車に限らずスケールモデルは、縮尺を一定に保つことで縮小再現の正確さを担保する造形物です。そのため、種類の異なるモデルは、スケールを統一して収集します。逆に同一モデルなら、異なるスケールを揃えて愉しみます。
1/43スケールのモデルカーは、歴史的にダイカスト製ミニカーの延長線上にあります。そのため収集キャリアの長い方や、掌サイズに凝縮された造形やディテールに、スケールモデルの醍醐味を感じ取れる方々に好まれています。
1/24(または1/25)は、自動車プラモデル業界の大半を占めるスケールです。プラモデル愛好家にはほとんど選択の余地がなく、必然的に1/24を中心に収集することになります。
比較的大きな1/18は、サイズの冗長さが気にならない方、寸法にお得感を抱く方、保管環境に問題の無い方、または大きさを活かした再現度を愉しみたい方などに好まれます。
ビッグ・スケールと呼ばれる1/12以上になると、収集と言えるほど商品の種類と量がありません。そのため製品化された車種そのものが大好きで、全体のフォルムを愉しむより、迫力と細かい機構の再現などを愉しみたい方に向いています。
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モデルカーの収集対象である自動車は、ザックリ言うとレースカー系とロードカー系に分かれ、両者にはちょっとした文化的背景の違いがあります。ロードカーが社会生活における実用品なのに対し、レースは欧州発祥のモータースポーツで、常にマスメディアを賑わすエンターテイメントです。
そのため、レース文化の隆盛を誇る欧州では、模型の世界においてもレースカーが人気を博しています。欧州に8年間駐在して痛感したのですが、F1のTV中継一つを例に取っても、レースに注ぐ情熱量は日本と雲泥の差があります。
一口にレースカーと言っても、造形上はF1に代表されるフォーミュラ・カー系と、ル・マン24時間耐久レースに代表されるGTレース・カー系に大きく分かれます。後者の兄弟分には、第3勢力とでも言うべきラリー・カー系があります。
レースカーの場合、模型ファンである前に、その分野のレースファンであることが多く、自分が応援するドライバーやチーム、または勝利して脚光を浴びた車種などを中心に収集する傾向があります。特定チームを掘り下げるのみならず、ライバル・チームへと収集範囲を広げるのも楽しみ方の一つです。
一方、そのレース自体をTV放映などメディアで紹介する機会が少ない国々では、情報をより入手しやすいロードカーの方が主流となります。しかし、新興スーパースポーツ車などは、中国で大富豪が誕生して以来、日本国内でモーターショーやメディアへの登場が激減し、モデルカー業界での認知度も欧州より低くなりました。嘆かわしい限りです。
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ロードカーを好んで収集する場合、私のようにブランドを問わないコレクターは少数派でしょう。1種類ではないにしろ、多くの方は特定のブランドに特化してロードカーを収集します。フェラーリやポルシェなど、レース活動も盛んなブランドでは、レースカーも一緒に収集対象とすることがよくあります。
実車ブランドとは趣が異なりますが、コンセプトカーや特定のデザイナーに特化して収集する方法もあります。私自身、ランボルギーニ収集から始まったものの、実質はそのデザイナー、マルチェロ・ガンディーニの作品の魅力にはまって、収集し始めたと言えます。デザイナーが同じだと、実車ブランドが異なっても、スタイリングには同じ血が流れています。
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ブランドどころではなく、その中の特定車種だけを収集する方も居ます。私が知っている例では、ランボルギーニ・ディアブロやフェラーリ・ディーノなど、その実車オーナーが保有する愛車を、模型の世界でも愉しむ場合などです。
その方々は、1車種だけに特化するため、スケールや商品種別はおかまいなく、その車種に関する製品であれば、ありとあらゆるモノを収集します。もはや、モデルカー・コレクターの範疇には収まりきりません。
実車オーナーには特別な強みがあります。愛車を特注やオーダーメイドで模型化してもらうことです。現物を徹底的に取材できるため、当然金額は張りますが、納得のいくモデルカーを製作できます。本節の冒頭で触れた、コレクターが模型クリエイターの製作過程に関与できる数少ない事例です。
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特定のモデルカー・メーカー(クリエイター)に限定して収集する場合もあります。2例挙げれば、独自の作風で知られるフランス旧・AMR社の製品だけを収集する“AMRコレクター”や、手頃な価格で品質が良く、車種も豊富なドイツPMA社ダイカスト製モデルのミニチャンプス・コレクターなどです。
そこまで徹底的に限定しないまでも、ある程度クリエイターを絞り込んで収集することはよくあります。実車ブランドに関わらず、収集する現物はあくまでクリエイターの手になる作品だからです。作者を特定して収集する手法は、絵画や小説など、他の文化作品では極一般的です。
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紹介したシンプルなコンセプトに対し、実際のコレクションはもっと複雑です。たった1車種に限定しても、第2章・第3節の系統別のように、ラインナップの隙間をどれだけ埋めるかで、コレクションの完成度が大きく変わります。系統バリエーションの車種は少量生産品が多く、膨大な情熱と時間を費やし、追い続ける執念が成就して初めて揃います。その上に、第2章・第4節の車体色別のような新たな要素を加えて水平展開すると、コレクションは掛け算で広がります。
しかし、この車体色というのが曲者です。1車種のモデルカーで生産される1色の台数は、大量生産の場合でもダイカスト製1000~3000台、レジン製300~500台です。ハンドメイドのレジン製は生産効率が悪く、100台未満ということも少なくありません。さらに、世界中に点在する専門ショップが、個別にメーカーへ限定色を特注します。10~30台という超限定生産の場合が多く、コレクター泣かせです。
例えば限定30台なら、保有している人物は世界で最大30名しかいません。人気商品は、発売時すでに完売ということも多々あり、店頭に並ぶことすらありません。しかし、本当の価値は単体の稀少性ではなく、系統を充実させるために常日頃から情報網を張り巡らせ、受注機会を逃すことなく購入を決断・実行する、コレクターとしての情熱にあるのです。
そうして到達したコレクションの完成度は、収集対象の如何を問わず、「深さ」と「広さ」で決まります。深さとは特定のテーマでどれだ け作品を揃えているかという充実度、広さとはそのテーマをどれだけ水平展開しているかという発展度です。数が多いから凄い、金額が大きいから価値が高いという、短絡的な定量評価で判断できるものではありません。
美術館に足を運んで、自らの感性で作品群を堪能できる方は稀ではないでしょうか。何らかの美術の実践者か、美術鑑賞を趣味と断言できる精通者くらいでしょう。多くの一般の方々は、作品の知名度や稀少性、金額的価値など、他人の作った評価に依存しているはずです。
世界モデルカー博物館も同様です。車やモデルカーの知識が乏しくても、数の多さや造形のバリエーションによって、多くの一般の方々に愉しんでいただけます。ただ、その真価、つまり当コレクションの深さと広さの独自性は、ある程度の自動車知識とモデルカーへの造詣がなければ堪能しきれないでしょう。その一助となる知識体系として、『モデルカー学』を最大限に活用して下さい。
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コレクションの独自性の一構成要素に、コレクター独自の作品というものがあります。プラモデルの世界では、組立てる技量レベルや塗装・改造などの趣向に、作者の個性が現れます。モデルカーでも、組立てが必要なキットの場合は、コレクター(作者)の個性を、造形上で表現することができます。
第6章・第4節の未組立キットで、キットを基にした作品作りの長所を説明していますが、ここでは具体的な2例として、ダイカスト製メーカー完成品に私自身が手を入れた作品と、プロモデラーに依頼してレジン製キットを全面改造してもらったハンドビルト作品を紹介します。
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ディーノ206Sは、V6エンジンをミッド・マウントするフェラーリのレーシングカーです。車体形状にはスパイダーとクーペがあり、ルーフの有無はもちろん、リア・クォーターの造形に大きな違いがあります。クーペは、ルーフからリア・エンドまで滑らかな曲線でつながっています。カッコ良いけれど、リア・フェンダーとリア・エンドの抑揚があまり活きていません。一方、スパイダーは、リア・クォーターを円弧に切り欠いて短く収めることで、ショート・テール形状を引き立てています。
私のコレクション信条は、2ドア・クーペです。そこで、このフェラーリ史上屈指の美しさを誇るディーノ206Sを、イタリア・バン社ダイカスト製のスパイダーとクーペを用い、ニコイチ(2個1)でクローズド・スパイダーを誕生させました。バン社は、大量生産ダイカスト製の甘さはあるものの、スタイリング再現の良さには定評があります。将来はプロに依頼し、保有するレジン製キットから高品質決定版を製作してもらうつもりです。
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トップ・ページでも紹介したとおり、TXGはスターター社レジン製キットのフェラーリ512TRを基に、私が細かいデザイン変更の指示を2D図解し、プロモデラーに3D改造してもらった架空の自動車モデルです。
私自身、BB時代の爬虫類的なフォルムのフェラーリより、直線基調でシンプルかつ大胆なフォルムのテスタロッサが大好きです。しかし、その後登場したケーニッヒ・スペシャルズ・ターボや同コンペティションのアンチテーゼ(非テスタロッサ的な意匠変更)に衝撃を受けます。
テスタロッサの形状で気になったのが、サイドからリアにかけてのシャープさとは裏腹の、フロント部分の野暮ったさです。空力的には、前輪にダウン・フォースを受けるための形状なのですが、ウェッジ・シェイプ好きの私はガンディーニやジウジアーロ並みのシャープさが欲しくなり、ボンネット上の丸みを大胆に削ってしまいました。
そのため、後輪へのダウンフォースを少し手前で受けるように変更し、ケーニッヒ風の大型リア・ウィングを装着しました。チンスポイラーやサイドミラー、ホイールもケーニッヒに倣っています。さらに、前後のホイール・アーチは、当時ル・マンに参戦していたヴェンチュリ400GT風にしています。現物は写真よりずっとカッコ良いです。
他にも、プロバンス・ムラージュ製キットのフェラーリF512Mを、ハーマン・モータースポーツF512Mに改造してもらったプロモデラー作品や、メーカーに特注してレースカーをロードカー・バージョンとしてファクトリー・ビルトしてもらった各種フェラーリなどがあります。是非、世界モデルカー博物館で現物をご覧になってください。
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